Chronicle 2012

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早いもので2012年が間もなく終わろうとしています。今年はこれまでに経験したことがないくらい忙しく、時が過ぎるのが本当に早かったです。この年齢になると、数年前のような無理は利かないことも分かりました。来年は少し身体を鍛えないといけないかもしれません。

さて、以下に記すようなクロニクルのかたちで、今年一年の公的な活動を振り返ってみますと、とくに音楽に関わる仕事が多くなってきていることが、あらためて実感されます。ドイツ語のテクスト、とくに詩の翻訳というかたちで大きな仕事に取り組む機会をいただいたことは、非常に勉強になりました。詩の翻訳というのは、たしかに散文のテクストの翻訳よりはるかに難しいですが、取り組む過程で学ぶことはとても多いです。機会を与えてくださった関係の方々に、あたらめて心から感謝申し上げたいと思います。それから、細川俊夫さんの『班女』と「星のない夜」、それにモーツァルトの『魔笛』といった、思い入れのある作品に取り組む機会をいただいたのも、とても嬉しいことでした。演劇の舞台の後の対談に参加させていただいたことも、今後に向けた刺激になります。

こうした文化に関係する活動を続けながら、今年の10月までは、これまでに積み重ねてきたヴァルター・ベンヤミンの言語哲学の研究を、一書にまとめることにエネルギーを傾注してきました。何年か前に仕上がっていなければならなかったものですが、おかげさまでこのほどようやくおおよその目処を付けることができました。この論考にいっそうの磨きをかけ、できるだけ早い時期にお届けできたらと考えております。また、これを足がかりに、テオドール・W・アドルノの仕事や、ホロコーストと原子爆弾の傷のなかから生まれた詩などを視野に入れつつ、想起の形象の美学や、他者の声の「谺」を響かせることの美学を展開する可能性を探ることが、来年の課題になろうかと思います。

今年の研究に関わる活動は、ベンヤミンの歴史哲学についてのこれまでの研究を、福島第一原子力発電所の人災に立ち至った「進歩」としての「復興」の歴史の問題や、東アジアに今も続いている暴力の歴史の問題を照らし出し、他者とともにある生を深く肯定するような、新たな歴史の概念を探究するのに生かす可能性を探る仕事が中心になりました。そのためにまとめて発表した原稿を含め、未公刊の講演原稿や散発的に公刊した論文なども、早く一書にまとめたいものです。

このような2012年の経験を踏まえて、歴史哲学と美学の研究を深化させるのが、来たる年の主な課題になるでしょう。刊行が進んでいるベンヤミンの批判版全集にも取り組みたいので、2013年は、書物に向き合う時間をできるだけ取るようにしたいものです。また、新たな翻訳の仕事に取り組みながら、音楽に関わる仕事も続けていければと願っております。来たる年も変わらぬご指導のほど、どうぞよろしくお願いいたします。2013年がみなさまにとって幸せに満ちた年になりますように。

■Chronicle 2012

  • 1月18日:Hiroshima Happy New Ear Operaの第1回公演として行なわれる細川俊夫さんの『班女』の上演に先立ち、作品そのものや今回の上演のコンセプト、さらには現代のオペラの動向などについて理解を深めるために、作曲者の細川俊夫さんと演出の平田オリザさんをゲストにお迎えして、広島市のアステールプラザの多目的スタジオで行なわれたプレ・トークの司会を務めました。
  • 1月20日:Hiroshima Happy New Ear Opera I 細川俊夫『班女』公演のプログラムに、「待つことの深みから──細川俊夫の『班女』に寄せて」と題するプログラム・ノートが掲載されました。夢幻の世界を現出させる能楽の精神を表現する『班女』の音楽が、「狂気」にも至りうる待つことの深みに降り立ち、そこにある生の深奥を響き出させ、歌に昇華させると見る視点から、オペラの元になった三島由紀夫の近代能「班女」、さらにその元になる世阿弥の能、その主人公の「班女」という名の由来、そしてこのオペラの音楽の特徴などを論じる内容のものです。
  • 1月20日、22日:広島市のアステールプラザの中ホール能舞台で開催された、Hiroshima Happy New Ear Opera I 細川俊夫『班女』公演終了後のアフター・トークの司会を務めました。
  • 3月18日:京都ドイツ文化センター・ヴィラ鴨川で開催された「3・11以後を考える日独哲学会議」の「ワークショップII」において、「もう一つの歴史の概念のために」と題する短い研究発表を行ないました。2011年3月11日の東北・東日本の大震災の死者たちが置き去りにされるなか、福島第一原子力発電所の人災に至った「復興」の歴史が繰り返され、「復興」と「進歩」の神話に人々が巻き込まれようとしている状況を問題にしつつ、歴史を見直し、歴史そのものの概念を、一人ひとりが他者、そして死者とともに生きることのうちに取り戻す可能性を探るものです。ヴァルター・ベンヤミンが、無意志的想起の経験から歴史の概念を捉え直そうとしたことを参照しながら、美化された神話としての物語に解消されない、生きることを深く肯定することと結びつくような歴史、さらにはその表現の可能性を探究することを、哲学および美学の課題として提示しました。
  • 3月26日:広島市立大学の広島平和研究所のニューズレター『Hiroshima Research News』の第14巻第3号に「広島から平和を再考するために──記憶の継承から他者とのあいだにある平和へ」と題する論考が掲載されました。ジャック・デリダの『アデュー』の議論を参照しつつ、被爆の記憶を開かれた仕方で継承する可能性とともに、他者ととも生きることの課題として「平和」を再考する方向性を模索する内容のものです。
  • 4月〜8月:広島市立大学国際学部の専門科目「共生の哲学I」、「社会文化思想史I」の講義、全学共通系科目では「世界の文学」の2回の講義、「平和と人権A」の1回の講義を担当しました。国際学部の2年生向けの「発展演習I」、3年生向けの「専門演習I」も担当しました。後者では藤田省三の『精神史的考察』を講読しました。大学院国際学研究科では、「現代思想I」の他、「平和学概論」の1回の講義も担当しました。広島大学では、教養科目の「哲学A」の講義の他、今年度は「戦争と平和に関する総合的考察」の講義も1回担当しました。日本赤十字広島看護大学では、「人間の存在」の講義を担当しました。
  • 4月20日:TOWER RECORDSのフリー・マガジン『intoxicate』のVol. 97に、「息遣いが織りなす季節の巡り、それを断ち切る天使の叫び──ヒロシマとドレスデンを記憶する細川俊夫のオラトリオ『星のない夜』の日本初演によせて」と題する小文が掲載されました。5月24日に日本初演を迎える細川俊夫さんのオラトリオ「星のない夜──四季へのレクイエム」を、その世界初演やドレスデンでの演奏のことも交えつつ紹介する内容のものです。
  • 5月24日:東京オペラシティ・コンサートホール・タケミツメモリアルで開催された、東京オペラシティ財団主催のコンポージアム2012のプログラムに、この日の演奏会「細川俊夫の音楽」で、準メルクル指揮のNHK交響楽団によって日本初演された細川俊夫さんのオラトリオ「星のない夜──四季へのレクイエム」のラインハルト・マイヤー=カルクスさんによる詳細な曲目解説の翻訳、その「ドレスデンの墓標」の楽章のナレーションの翻訳、「冬に」、「春に」、「夏」、「浄められた秋」の各楽章で歌われるゲオルク・トラークルの詩、そして「天使の歌」の楽章で歌われるゲルショム・ショーレムの翻訳が掲載されました。このときの演奏では、ナレーションは私の日本語訳で朗読されました。なお、この日の演奏の録音は、1か月後の6月24日に、NHK-FMの「現代の音楽」で放送されました。
  • 6月23日:広島市立大学の知のトライアスロンの広島市映像文化ライブラリーへの出張講座において、「『純愛』が照らし出す原爆の傷」と題する短い講演を行ない、今井正監督の映画『純愛物語』(1957年)を紹介するとともに、内部被曝の問題に触れたこの映画には、私たちの未来のない未来が映し出されていることを指摘しました。なお、この講演のことは翌日付の中国新聞でも報じられました。
  • 7月3日:広島市東区民文化センターのスタジオで行なわれたディディエ・ガラスの独り芝居『アルルカン再び天狗に出会う』のポスト・パフォーマンス・トークに参加し、劇研の杉山準さん、ディディエ・ガラスさんと対談しました。
  • 7月14日:広島女学院大学で開催された、「詩と声明/死と生命」をテーマとするCultural Typhoon 2012 in Hiroshimaのメイン・パネルの一つ「軍都広島からチョッケツ東アジア」のセッションにて、「広島の静まることなき魂のために」と題する声明を行ないました。実質的な内容は、「軍都」を現在の問題として問いながら、統御されえない生命の息吹としての、さらに言えば鎮まることのない死者の魂とも谺し合う息吹としての詩的なものの余地を、歴史そのものの反転へ向けて切り開こうと試みるものです。
  • 8月5日:妻の主宰するヴァイオリン教室の発表会にて、ローベルト・シューマンの三つのロマンスの第2曲のヴィオラのための編曲を演奏しました。
  • 8月7日:広島市立大学の夏季集中講座Hiroshima and Peaceにて、“Reconsidering the Concept of Peace: From a Philosophical Perspective”と題する講義を英語で行ないました。
  • 9月23日:広島市東区民文化センターのスタジオで行なわれた第七劇場の公演「班女/邯鄲」のポスト・パフォーマンス・トークに参加し、演出の鳴海康平さんと対談しました。
  • 10月〜2013年2月:広島市立大学国際学部の専門科目「共生の哲学II」、「社会文化思想史II」の講義を担当しています。専門科目の「国際研究特講II」では、「東アジアに共生の回路を開くために」という講義を行ないました。全学共通系科目では「哲学B」の講義を担当しています。この他、国際学部の2年生向けの「発展演習II」、3年生向けの「専門演習II」も担当しています。「専門演習II」ではこれまでに、ベルトルト・ブレヒトの『三文オペラ』を講読しました。大学院国際学研究科では、「現代思想II」を担当しています。広島大学では、教養科目の「哲学B」の講義を、広島都市学園大学では「哲学」の講義を担当しています。
  • 10月22日:広島市のアステールプラザのオーケストラ等練習場で開催された、Hiroshima Happy New Earの特別演奏会、細川俊夫さんの「ヒロシマ、声なき声」の第2〜第5楽章のピアノ伴奏による演奏に先立ち、レクイエムの典礼文、パウル・ツェランの詩「帰郷」、そして松尾芭蕉の俳句二首を、日本語訳で朗読しました。また、この演奏会のプレ・トークとアフター・トークの司会も務めました。
  • 10月24日:呉市の呉宮原高等学校にて「平和を哲学する」と題する模擬講義を行ないました
  • 11月8日:広島市のアステールプラザのオーケストラ等練習場にて開催されたHiroshima Happy New Ear XIII ジャック弦楽四重奏団演奏会のアフター・トークの司会を務めました。
  • 12月1日:広島市のアステールプラザ大ホールで開催されたひろしまオペラルネッサンスの公演、モーツァルト『魔笛』のプログラムに、「魂に息を吹き込む魔法の笛」と題するプログラム・ノートが掲載されました。矛盾を抱え込んだ人間像を浮き彫りにするこのオペラの音楽が、モーツァルト晩年の音楽に相応しく、簡素で研ぎ澄まされたかたちで、人間が生きることの現実を、その厳しさを含めて仮借なく浮き彫りにしていることを、オペラが作曲された頃のモーツァルトの境遇や時代の動向などに触れつつ論じる内容のものです。
  • 12月19日:この日にリリースされたソプラノ歌手の半田美和子さんの初めてのアルバム『Khôra — Niemandslied』(EXTON)に収録された、ドイツ語歌詞の歌曲やオペラからのアリアなどの歌詞の翻訳を担当しました。翻訳は、歌詞対訳のかたちでCDのブックレットに掲載されています。ヨハン・ゼバスティアン・バッハ、グスタフ・マーラー、アルバン・ベルク、アントン・ヴェーベルン、ジェルジー・リゲティの曲の歌詞を翻訳しました。
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