小著『パット剝ギトッテシマッタ後の世界へ──ヒロシマを想起する思考』を上梓しました

9784755402562このたび『パット剝ギトッテシマッタ後の世界へ──ヒロシマを想起する思考』と題する小著を、インパクト出版会から上梓しました。よく知られた原民喜の詩句を表題に用いた本書を、広島と長崎が被爆から70年の節目を迎えようとしている時期に世に送り出すことに、身の引き締まる思いです。本書には、2007年から今年までのあいだに、ちょうど一年前に上梓した『ベンヤミンの言語哲学──翻訳としての言語、想起からの歴史』(平凡社)に組み込まれた論文を書き継ぐ傍らで、広島の地での文化に関わる活動のさまざまな機会に応じて書かれた論文や評論、そしていくつかの講演録が収録されています。論考を最初に発表する機会を与えてくださった方々や講演の機会を設けてくださった方々に、この場を借りて心から感謝申し上げます。靉光の《眼のある風景》を生かすかたちで美しく装幀していただいたのも大きな喜びです。

本書に収録された論考や講演録を貫いているのは、原民喜が「パット剝ギトッテシマッタ アトノセカイ」と呼んだ広島の焦土の光景や、そこにいた人々のことを今ここで想起する可能性を、芸術のうちに、さらには言葉そのもののうちに探りながら、「平和」を、死者を含む他者とともに生きることのうちに取り戻そうとする思考のもがきです。ここ広島でも「平和」が、権力者とそれにすり寄った大勢順応主義者の手に落ちつつあるなか、生存そのものの危機が迫っていますが、そのような今こそ、このもがきの跡を敢えてお示ししたいと考えて、本書をお届けする次第です。本書の焦点は「ヒロシマ/広島/廣島」にありますが、そこには近代、そして現代の日本の問題が凝縮されているとも考えております。さまざまな角度からお読みいただけたらと願っております。以下、本書の内容をごく簡単にご紹介しておきます。

序として掲げたのは、広島が帝国の軍都であったことを省みながら、70年前の出来事を、今も続く暴力の歴史の中断とともに開かれる来たるべき東アジアへ向けて想起しようという本書の基本的な問題意識を示すものです。第1部には、想起の媒体としての芸術作品のあり方を掘り下げながら、死者とともに生きる場を切り開く芸術の力に迫ろうとする評論や講演を収めました。第2部の中心をなすのは、ヒロシマ平和映画祭やそれに関連する催しの際に行なわれた講演です。その基調をなすのは、広島の抵抗としての文化の遺産を、生の肯定へ向けて継承する可能性を模索する思考です。第3部には、合評会などの機会に発表された書評を中心とする批評を集めました。作曲家詐称問題に触れた評論も収録しています。第4部に収められているのは、今ここで被爆の記憶を継承すること自体へ思考を差し向け、被爆の記憶を世界的なものとして受け継ぐことにもとづいて追求されるべき平和の可能性を、他者とともに生きることのうちに探った論考です。ヒロシマを想起することを主題とする書き下ろしの論考が含まれています。付録として、広島の文化を培っていくために致命的に欠けている施設の建設の提案も収録しました。

このような構成で送り出される本書の議論には、言うまでもなく、尽くされていない点が多々あるでしょうし、哲学と美学からのアプローチの限界が露呈しているところもあることでしょう。これらについてはみなさまから忌憚のないご指摘をいただけたら幸いです。何よりも、本書の問題提起を契機に、軍都廣島と戦後の広島の歴史を、現在を照らし出すものとして捉え直すことや、被爆の記憶の証言を深く受け止め、その記憶を、他者の苦難の記憶にも呼応するかたちで継承することについて、そして広島の芸術と文化のあり方について議論が深まることを心から願っております。

『パット剝ギトッテシマッタ後の世界へ──ヒロシマを想起する思考』目次

はしがき

序 広島の鎮まることなき魂のために

第一部 記憶する芸術の可能性へ向けて

  • 未聞の記憶へ──記憶の痕跡としての、想起の媒体としての芸術作品の経験、その広島における可能性
  • 記憶する身体と時間──ヒロシマ・アート・ドキュメント2008によせて
  • 耳を澄ます言葉へ──今、ヒロシマを語り、歌う可能性へ向けて
  • 芸術の力で死者の魂と応え合う時空間を──被爆七十周年の広島における表現者の課題

第二部 映画から問う平和と文化

  • 「平和」の摩滅に抗する映画の経験へ──ヒロシマ平和映画祭2007へ向けて
  • アメリカ、オキナワ、ヒロシマの現在へ──ヒロシマ平和映画祭2009への導入
  • 生の肯定としての文化を想起し、想像し、創造するために──「表現の臨界点(クリティカル・ポイント)──広島の現在と赤狩り、安保、沖縄」プロジェクトを振り返って
  • 抵抗としての文化を継承し、生の肯定を分かち合う──ヒロシマ平和映画祭2011における「抵抗としての文化」プロジェクトによせて

第三部 ヒロシマ批評草紙

  • 「ゲン」体験と「正典」の解体──吉村和真、福間良明編著『「はだしのゲン」がいた風景──マンガ・戦争・記憶』書評
  • 「ひろしまの子」たちの声に耳を開く──東琢磨『ヒロシマ独立論』書評
  • 封印の歴史を逆撫でする──高橋博子『封印されたヒロシマ・ナガサキ──米核実験と民間防衛計画』書評
  • 「受忍」の論理を越えるために──直野章子『被ばくと補償──広島、長崎、そして福島』書評
  • 作品批評の在り方検証を──作曲家詐称問題に関する中国新聞への寄稿記事
  • 「多数」としての「ひと(サラム)」を生きることを呼びかける言葉の創造──崔真碩『朝鮮人はあなたに呼びかけている──ヘイトスピーチを越えて』書評

第四部 記憶の継承から他者とのあいだにある平和へ

  • 広島から平和を再考するために──記憶の継承から他者とのあいだにある平和へ
  • 歓待と応答からの共生──他者との来たるべき共生へ向けた試論
  • 残傷の分有としての継承──今ここで被爆の記憶を受け継ぐために

付録 [不採択]被爆七十周年記念事業案

あとがき

[本書は、お近くの比較的大型の書店のほか、Amamzon.co.jp楽天ブックスhonto紀伊國屋BookwebMARUZEN & JUNKUDOエルパカBOOKSセブンネットショッピングHonya Clubなどでご購入いただけます。]

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小著『パット剝ギトッテシマッタ後の世界へ──ヒロシマを想起する思考』を上梓しました」への8件のフィードバック

  1. 版元のインパクト出版会のウェブサイトに上記の拙著の詳細情報が掲載されています。ウェブ上の各書店の拙著のページの情報も整いつつあります。ご覧いただければ幸いです。http://www.jca.apc.org/~impact/cgi-bin/book_list.cgi?mode=page&key=patto

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  2. おかげさまで、拙著『パット剝ギトッテシマッタ後の世界へ』につきましては、各所より温かい反応をいただいております。広島では、紀伊國屋書店で平積みされているのを目にしました。ウェブ上の各書店の在庫も少なくなってきている様子で、Amazonなどに少しずつ残っている状態とのことです。お早めにお求めいただけると幸甚です。よろしくお願いいたします。

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  3. 7月31日(金)に連続講演会「ベンヤミンの哲学」が初回を迎えますが、初回の会場でも拙著『パット剝ギトッテシマッタ後の世界』の出版社による販売があります。講演会は、18:30より東京ドイツ文化センターの図書館で行なわれます。この機会に拙著をお手に取っていただけると幸いです。http://www.goethe.de/ins/jp/ja/tok/ver.cfm?fuseaction=events.detail&event_id=20512912

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  4. 今朝の中国新聞の1面広告欄で、拙著『パット剝ギトッテシマッタ後の世界──ヒロシマを想起する思考』(インパクト出版会、2015年)が、長崎新聞との共同企画による特集広告「平和について考える一冊」のなかで紹介されました。さらに多くの方が拙著を手に取ってくださる機縁になればと願っております。上記のように拙著の第4部は、「記憶の継承から他者とのあいだにある平和へ」と題しました。そこには、「平和」を、現代世界において他者とともに生きることそれ自体に関わるテーマとして考察した拙論も含まれております。「平和」という言葉が、生きることから掠め取られ、殺し、殺されるのに人を駆り立てるのに使われつつある今、あらためて生きることにとって「平和」とは何かと考えるきっかけになれば幸いです。

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  5. ご報告が遅れましたが、上記の拙著を8月30日付中国新聞読書欄の「郷土の本」コーナーにてご紹介いただきました。とても光栄に思っております。広島や中四国のみなさまにお手に取っていただく機縁になることを願っております。

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  6. 2015年8月30日付中国新聞読書欄での拙著『パット剝ギトッテシマッタ後の世界へ──ヒロシマを想起する思考』の紹介が同新聞のウェブサイト「ヒロシマ平和メディアセンター」に掲載されております。ご覧いただければ幸いです。http://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=50490

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  7. 2015年10月11日付の朝日新聞読書面の小枠出版広告(いわゆるサンヤツ)に、村上陽子さんの『出来事の残響──原爆文学と沖縄文学』や拙著『パット剝ギトッテシマッタ後の世界へ──ヒロシマを想起する思考』を含むインパクト出版会の広告が出ております。ご覧いただけると幸いです。http://book.asahi.com/・・・/AD/intro/ADTLM20151011207.html・・・

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  8. 『図書新聞』3230号に、拙著『パット剝ギトッテシマッタ後の世界へ』の書評が掲載されました。「軍都」の現在および「軍都」的なものの批判という拙著を貫く問題意識を汲むと同時に、あまりにも明快な対立図式を持ち込みながらある種の定言的命法を語ってしまう言説の構えに対する批判を含めた古賀徹さんによる批評です。拙著に関心を持っていただくきっかけとなれば幸いです。私としては、批判を真摯に受け止め、次の仕事への糧としたいと思います。http://toshoshimbun.jp/books_newspaper/week_article.php

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