『細川俊夫 音楽を語る──静寂と音響、影と光』刊行のお知らせ

51fwl3vou1l広島に生まれ、現代日本を代表する作曲家として世界中で活躍されている細川俊夫さんが、その創造の源泉と思索の軌跡を語った「対話による自伝」とも呼ぶべき対談書、『細川俊夫 音楽を語る──静寂と音響、影と光』が、アルテスパブリッシングより拙訳にて刊行されます。12月12日には、各書店の店頭に並ぶとのことです。

本書は、ドイツですでに2012年にWolke社より出版されている、Toshio Hosokawa — Stille und Klang, Schatten und Licht: Gespräche mit Walter Wolfgang Sparrerの日本語版ということになります。聞き手を務めているのは、ドイツの音楽学者ヴァルター゠ヴォルフガング・シュパーラーさん。細川さんの作曲の師尹伊桑の音楽の研究者として、東アジアの音楽に深い関心を持ち続けるとともに、細川さんの作曲活動をベルリン留学時代からずっと見守ってこられた方です。序文は、細川さんと深い親交で結ばれているだけでなく、細川さんの音楽に今も刺激を与え続けている作曲家ヘルムート・ラッヘンマンさんによるものです。

原書刊行から4年以上が経過してしまいましたが、こうして日本語版の刊行に漕ぎ着けられたのは、何よりもまずアルテスパブリッシングの木村元代表の深いご理解とお力添えの賜物です。編集の実務は、青土社時代にピエール・ブーレーズの『標柱 音楽思考の道しるべ』や『現代音楽を考える』などを手がけられた水木康文さんにご担当いただきました。水木さんのきわめて綿密で誠意に満ちたお仕事がなかったら、本書をここまで仕上げることはできませんでした。寺井恵司さんに、装幀を含め本書全体を美しくデザインしていただけたのも非常にありがたかったです。

さて、シュパーラーさんの手によってまとめられた原書の最大の特色は、細川さんの作曲活動の全体に見通しを与えながら、細川さんの音楽の核心にあるものを浮かび上がらせる、本格的な細川俊夫論であるということです。一書にまとまった評論としては世界初ということになります。細川さんの作曲活動の出発点や、その新たな展開への転換点となった場所を軸とした章では、細川さんの音楽が、同時代の音楽の文脈から独特の位置において浮かび上がっています。あるいは、「花」のような細川さんの作曲のテーマを焦点とする章では、作曲の基本理念と方法が、音楽を専門としない読者にも分かりやすい言葉で語られています。

そればかりでなく、今音楽とは何か、日本からの音楽は何でありうるか、芸術の社会的位置はどこにあるのか、その源にある自然のなかの、また自然とともにある人間の生は今どうなっているのか、といった問題をめぐって、細川さんの深い思索が繰り広げられていることも、原書の特色として見逃せません。翻訳に際しては、原書のそのような特色を最大限に生かせるよう微力を尽くしました。まずは、ようやく日本での演奏機会が徐々に増えてきた細川さんの作品の原点にあるものを、さらにはその作曲を貫く思想を理解する一助として、本書を役立てていただけることを心から願っております。もし本書が、芸術との関わりを、さらには自然との関係を深いところから見つめ直すきっかけになるとすれば、これに勝る幸いはありません。

日本語版の最大の特色としてまず、細川さんから特別に新たな序文をお寄せいただいていることを挙げなければなりません。また、ショット・ミュージックの多大なご助力により、2016年前半までの年譜、作品目録、ディスコグラフィが収録されているのも、日本語版独自の際立った特色と言えるでしょう。人名と細川さんの作品名の索引も付しました。それゆえ一種の資料集としても、お手許に置いて長くお使いいただけるものと考えております。豊富な写真と譜例、それに図版も、原書から引き継いでいます。これらを眺めるだけでも、かなり見応えがあるのではないでしょうか。

至らぬ点もあろうかとも思いますが、音楽を愛好する方々に、細川さんの音楽の世界を開くとともに音楽そのものを深く考えさせる一冊として、あるいは作曲を志す方々に刺激と示唆を与える一冊として、本書が広く手に取っていただけることを願ってやみません。西洋の音楽と文化に正面から向き合いながら、日本、そしてアジアの音楽の核心にあるものを深い源泉から汲み上げ、世界へ向けて響かせ続けている細川さんの音楽の世界を、その原風景から開く本書は、音楽そのものが生まれる現場へ読者を導き、その音楽観を変えるきっかけになるものと信じております。