細川俊夫『細川俊夫 音楽を語る──静寂と音響、影と光』刊行記念トーク・ショー[2017年3月4日/ESPACE BIBLIO]のお知らせ

51fwl3vou1l昨年12月に拙訳にてアルテスパブリッシングより刊行された、細川俊夫著『細川俊夫 音楽を語る──静寂と音響、影と光』(聞き手:ヴァルター゠ヴォルフガング・シュパーラー)の刊行を記念して開催されるトーク・ショー「細川俊夫の創作の背景にせまる──尹伊桑、武満徹、そしてオペラへの道」をご案内いたします。来たる3月4日(土)15:00より駿河台のESPACE BIBLIOにて開催されるトーク・ショーでは、著者の細川俊夫さんをお迎えして、本書において初めて語り下ろされた、この世界的な作曲家の創作の軌跡の背景にあるものや、本書では語られなかったエピソードなどを、2012年にドイツで本書の原書が刊行されて以後の作曲活動を含めて詳しくお話しいただきます。また、今回は特別ゲストとして、世界を代表するリコーダー奏者の鈴木俊哉さんをお迎えいたします。細川さんのお話と鈴木さんの演奏によって、本書の内容を具体的に感じ取っていただきながら、細川さんの「空間と時間の書(カリグラフィー)」としての音楽を身近に感じていただけるものと考えております。会場などの情報は、末尾に記しておきます。開催に向けてご尽力くださっているESPACE BIBLIOの関係者のみなさまに、この場を借りて心より感謝申し上げます。

本書『細川俊夫 音楽を語る』の概要はすでに別稿に記しましたし、版元のアルテスパブリッシングのウェブサイト(こちらから直接本をご購入いただくこともできます)にも記されておりますので、ここでは繰り返しません。今回の「細川俊夫×柿木伸之トーク・ショー」では、この「対話による自伝」に語られた半生と作曲の足跡のうち、とくにベルリン留学時代の尹伊桑との師弟関係や、細川さんの広島での少年時代にまで遡る武満徹との関係に焦点を絞りながら、これらの作曲家の音楽との対照において、細川さんの音楽世界を浮き彫りにしたいと考えております。鈴木さんの演奏を交えながら、これらの作曲家と細川さんのあいだにある東洋の伝統楽器へのアプローチの相違などにも光を当てることができるのでは、とも思います。2012年以後の作曲の展開を語っていただく際には、オペラ《班女》、そして《松風》の一部の貴重な映像を見ながら、ちょうど一年前にハンブルクで平田オリザさんの演出により初演された《海、静かな海》を含めたオペラの作曲についても詳しくうかがえるものと考えております。それをつうじて、オペラを含む音楽作品を世界中から委嘱され続けている細川さんの作曲の現在が、本書に語られた創作の源泉から浮かび上がることでしょう。細川さんの音楽世界の展開の軌跡とその今にじかに接することのできる3月4日のトーク・ショーへ、ぜひお誘い合わせのうえお越しください。多くの方のご来場を心よりお待ち申し上げております。

  • 日時:2017年3月4日(土)15:00〜17:00(14:30開場)
  • 会場:ESPACE BIBLIO(エスパス・ビブリオ)※リンク先に地図があります。〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台1-7-10YK駿河台ビルB1F
  • 参加費:1,500円(当日精算)
  • 予約制:Eメール(info@espacebiblio.superstudio.co.jp)または電話(Tel.: 03-6821-5703)にて受付(定員60名)。Eメールでご予約の際には、上記のアドレス宛に件名「3/4細川氏トーク希望」にて、お名前、電話番号、参加人数をお知らせください。追って返信で予約完了が伝えられるそうです。電話による予約は、火曜日から土曜日の11:30〜20:00のあいだ受け付けているとのことです。20170304%e7%b4%b0%e5%b7%9dx%e6%9f%bf%e6%9c%a8%e3%83%88%e3%83%bc%e3%82%af_a6%e7%89%883rd

サントリー芸術財団Summer Festival 2013より

9月の3日と5日に、サントリー芸術財団が主催するSummer Festival 2013の一環として行なわれた、サントリーホール国際作曲委嘱シリーズの演奏会を聴かせていただきました。今年のテーマ作曲家は細川俊夫さんで、9月3日に開催されたのは、細川さんの弦楽四重奏曲を、最初期の作品から最新の作品まで通観する演奏会、5日に開催されたのは、サントリーホールからの委嘱作品である細川さんのトランペット協奏曲《霧のなかで》の世界初演を中心とする管弦楽作品の演奏会でした。

9月5日の演奏会の開演前には、プレ・トークが行なわれ、その聞き手を務めさせていただきました。先頃ザルツブルク音楽祭で世界初演されたソプラノとオーケストラのための《嘆き》や、演奏会で一部が取り上げられるオペラ『松風』など、最近の作品について、世界初演を迎えるトランペット協奏曲《霧のなかで》について、そしてこの国際作曲委嘱シリーズの創設者である武満徹さんの遺志に沿って、細川さんが最も影響を受けた作曲家と最も将来を嘱望する作曲家の作品を取り上げた、演奏会のプログラム全体のコンセプトについて、細川さんにお話をうかがいました。

それから、Summer Festival 2013のプログラムには、「照応のなかに開花する〈うた〉へ──細川俊夫の近作に聴く〈うた〉の探究」と題するささやかなエッセイを寄稿させていただきました。人間が飼い馴らすことのできない自然との、宇宙的とも言える照応関係が身体的に生きられるなかから開花する〈うた〉、この自然と共振する魂の内側から響き出る〈うた〉を追求する細川さんの作曲活動を、先頃広島で日本初演された尺八協奏曲《旅X──野ざらし》、ベルリンなどで再演されたオペラ《松風》、9月3日にも取り上げられた弦楽四重奏曲《開花》などのうちに見届けようとするものです。

9月3日と5日の演奏会の印象を、それぞれ短く記しておきます[すでにFacebookの私のウォールに記したことと内容的に重なっている点、ご容赦ください]と、まず、9月3日に開催されたディオティマ弦楽四重奏団による、細川俊夫さんの弦楽四重奏曲を集めた演奏会[サントリーホール小ホール「ブルーローズ」]では、このクァルテットの研ぎ澄まされた響きによって、細川さん独特の書の線をなす響きに込められた動きや歌が、余すところなく、かつ濃密な時間のなかで表現されていたのが、非常に感銘深かったです。響きの繊細さが、曲の特色を生かすかたちで発揮されたのが、最新の《遠い声》の演奏で、雲が漂うようにゆったりと流れ、時折笙の音を思わせる響きのなかに、繊細な、自然と感応するなかから歌い出される密やかな歌が、歩むように響いているのを聴くことができました。6月に世界初演されたばかりで、この日の演奏が日本初演だったこの曲は、深く聴くことに誘う一曲と思われます。

また、4つの楽器の音が、ごく近い音で静かに折り重なるなかから音のドラマが展開するのは、最初に1980年の《原像》から変わらない細川さんの弦楽四重奏曲の特徴で、とくにこの最初期の作品では、張りつめた響きのなかから、強い情念を感じさせる音楽が高まっていきます。濃密な沈黙もこの作品の特徴をなすもので、そこにチェロのピツィカートが打ち込まれ、そこからクァルテット全体で琵琶の即興演奏のような音楽が展開する一節がとくに印象深かったです。そこを聴きながら、あるいはコル・レーニョの連打が内的な葛藤を表現する一節を聴きながら、広島で聴いた、これも最初期のヴァイオリン独奏のための《ウィンター・バード》や、武満徹さんの1960年代の作品を思い出しました。

これらの2曲のあいだには、《開花》、《沈黙の花》、そして《書》からの4曲が演奏されましたが、それらの演奏は、ディオティマ弦楽四重奏団が曲を完全に手中に収めていることを感じさせる、見事なものでした。《開花》では、憧れに満ちた歌と、深いところから高まっていく生命の蠢きとの対照が、《沈黙の花》では、移ろいのなかの濃密な音楽の展開が、洗練された響きで、かつ深い音楽的な必然性をもって鳴り響いていました。《書》のまさに一筆の線は、つい先日武生で聴いたときより、さらに鋭敏さを増したような気がします。《原像》から《遠い声》まで、細川さんの弦楽四重奏曲にひとすじの線が貫かれていることに深く聴き入ることができた演奏会でした。

9月5日の管弦楽作品の演奏会[サントリーホール大ホール]では、近作のオペラ《松風》より松風のアリアと委嘱作品のトランペット協奏曲《霧のなかで》を中心に、このシリーズの創設者である武満徹の志に沿って、細川俊夫が影響を受けた作曲家として、ジェルジ・リゲティの作品として《ミステリーズ・オヴ・マカーブル》が、また将来を最も嘱望する作曲家の作品として、フランチェスコ・フィリデイさんのチェロ協奏曲《全ての愛の身振り》が演奏されました。オーケストラは、準メルクルさん指揮の東京フィルハーモニー交響楽団。すべての作品を優れて音楽的な流れをもってわがものにした指揮の下、献身的とも言える素晴らしい演奏を繰り広げていました。

まず、フィリデイさんの作品では、死を予感させる大太鼓の音が打ち込まれるなかから、怯えるような繊細な響き──彼自身が親しんでいるオルガンの響きを思わせます──が浮かび上がった後、特殊奏法や噪音も駆使しつつ、複雑ながらも厳密なリズムで構成されたチェロの独奏が、オーケストラとよく噛み合いながら凄まじいまでのクライマックスを築いていくのに圧倒されました。そこには、どこか死の不安に駆られながら、生に、その象徴としての愛することにしがみつくことの狂おしさも表現されていたように思います。チェロの最低音がチューニングを下げながらオーケストラの低音と溶け合って、そこから浄化された響きが、生の根底から響くように立ち現われてきたのには、感動を覚えました。作品の要求に見事に応える多井智紀さんの独奏も素晴らしかったです。

次に演奏されたのが、細川俊夫さんのオペラ『松風』より、松風のアリア。曲は、オペラの前奏曲と、主人公の松風が松の木陰に在原行平の姿を幻視し、それと忘我のうちに一体化していく第4景の音楽によって構成されており、松風の妹の村雨のパートを、イェルーン・ベルヴァーツさんのトランペットが担当しました。松風を歌うのは、オペラの初演でも歌ったバーバラ・ハンニガンさんです。サンプリングされた水音のなかから立ち上がる、気配を感じさせる響きが夜を現出させ、海辺の風景を形づくっていきます。そこに松風の声が、行平の名を呼びながら静かに入り込んできて、行平を思いのなかで追いながら高まっていく過程が、湧き上がる情念に身を捩らせるかのような、激しい動きをもった線をなしながら、松風の狂おしいまでの思いを響かせていました。ハンニガンさんの声は、この曲に求められる妖しいまでの艶やかさと、空間を突き抜けるような強さとを兼ね備えていて、とくに行平の狩衣を掻き抱いて忘我の境地に至ろうとする瞬間は、強い印象を残しました。

休憩を挟んで、細川さんのトランペット協奏曲《霧のなかで》の世界初演が行なわれました。海鳴りのような響きも聴こえるなかから、漂うような響きが徐々に立ち上がってきて、そのなかに独奏トランペットが、静かに歩むように響いてきます。やがて、霧をなすオーケストラの響きが高まってきてうねりをなし、人を圧倒する力を持って押し寄せてきます。その波の大きさは、今までに耳にしたことのないほどのものでしたが、それとともに、波に巻き込まれてもがくかのようなトランペットの独奏が強い印象を残しました。独奏を担当したベルヴァーツさんは、輝かしい音と素晴らしい技巧で、時に霧を突き抜けるような音を響かせながら、時折マウスピースを取り、ミュートを付けた楽器を通して、魅力的な声も響かせていました。ミュートを替えるごとに声色を変えるその声は、オーケストラの響きのなかからだと、深いところから聴こえるようでもあり、深く聴くことに誘う歌を響かせるようでもありました。最後に、ミュートを付けたトランペットの音が、風のような響きのなかへ消え入っていく瞬間は、旅人が霧のなかへ歩み去っていくさまを思わせるもので、感銘深かったです。

最後に、リゲティのオペラ『ル・グラン・マカーブル』より、ゲポポのアリアを中心に構成された《ミステリーズ・オヴ・マカーブル》が演奏されましたが、ここではハンニガンさんが歌いながら指揮を執り、一つのオペラティックでもあり、舞踏的でもあるようなシーンを現出させていました。歌うだけでも大変な技巧を要し、指揮するのにも高度な技術を要するこの曲を、ハンニガンさんは完全にわがものにしていて、圧倒されます。根拠なき恐怖に駆られ、過度に緊張したゲポポが、リゲティの哄笑を聴かせるようなアンサンブルの響きと、丁々発止の遣り取りを繰り広げながら、歯車が狂うように狂気に陥っていくさまを、ハンニガンは聴き手を拉し去るような速度感を持ったパフォーマンスで表現していました。この夜演奏されたいずれの曲も、生きることの底にある狂おしさを、音楽ですくい取ろうとする深い〈うた〉に満ちていて、演奏会全体としても深い感銘を残しました。そのことは、生涯にわたり〈うた〉を愛し続けた武満徹さんの志にも適ったことと思われます。

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