細川俊夫のオペラ《海、静かな海》の世界初演を振り返るシンポジウムのご案内

中央大学人文科学研究所公開シンポジウムflyer東日本大震災と福島第一原子力発電所の過酷事故が起きてから5年の月日が経ちました。それとともに、これらの出来事が人々の魂に残した傷がいかに深かったかが、浮き彫りになりつつあるように思われます。被災した人々のそれぞれの場所での生活再建がままならない状況は言うまでもありませんが、津波などで肉親を亡くし、自分だけが生き残ったことの負い目を抱えるなかで心身を磨り減らし、早く亡くなる人が後を絶たないことも、座視できないことでしょう。こうした問題があるなかで、未だ2600名に近い行方不明者がいることは、非常に痛ましいことです。その一部が、防護服なしには捜索に行くことすらできない場所に置き去りにされていること、それはいわゆる「原子力政策」の取り返しのつかない過ちを物語っているばかりでなく、壊滅的な放射能汚染の危険をも告げているのではないでしょうか。にもかかわらず、政府と電力会社は、原子力発電所の再稼働を押し進めています。

このように、大震災も原発事故も未だけっして終わっていないなか、深刻な危機に直面している現在を照らし出すとともに、そこに生きることを根底から見つめ直させるのが、今年の1月24日にハンブルク州立歌劇場で世界初演された細川俊夫さんのオペラ《海、静かな海》だと思われます。ケント・ナガノさんの指揮と平田オリザさんの演出による世界初演の模様は、3月14日の午前0時よりNHK-BSの「プレミアムシアター」の枠内で放送されましたので、ご覧になった方もおられることでしょう。この放送を私も見ました。すでに別稿に記したとおり、私は《海、静かな海》の世界初演をハンブルクで観ているわけですが、「フクシマへのレクイエム」と題されたドキュメンタリーとともにその初演を見直すことで、新たに知ったことや発見したことがありました。細川さんの音楽や、福島と広島の結びつきなどについても、あらためて考えさせられたところです。

さて、来たる2016年3月26日(土)に、細川さんの《海、静かな海》のハンブルクでの世界初演、そしてその模様の放送を踏まえたうえで、この新たなオペラの世界初演の意義を検討し、現代のオペラの可能性を、その社会との関係などを含めて考えるシンポジウム「ドイツでオペラをつくるということ──ハンブルク歌劇場での細川俊夫《海、静かな海》初演を振り返る」が、中央大学の人文科学研究所の主催により開催されます。時間は14時より17時半までで、会場は中央大学後楽園キャンパスの6210号室です。昨年のシンポジウム「《リアの物語》から考える──日本での現代オペラ上演の現状と課題」と同様、今回も現代のオペラの可能性を世界的な動向を視野に追求し続けておられる、中央大学の森岡実穂さんにコーディネイトしていただきました。今回のシンポジウムにおいては、細川さん自身が《リアの物語》から《海、静かな海》に至るオペラ作曲の歩みを語ってくださるのが何よりも貴重と思われます。細川さんにとって、オペラの作曲とは何か、またどのような音楽思想の下で《海、静かな海》が作曲されたのか、といったことを詳しくうかがえることでしょう。

また、演出家の佐藤美晴さんより、《海、静かな海》のハンブルクでの世界初演のプロダクションに演出助手として加わった経験をお話しいただけるのも、とても貴重なことでしょう。ドイツにおけるオペラ制作の実情を詳しくうかがうなかで、日本におけるオペラ制作の課題も浮かび上がってくるのではないでしょうか。私も、「細川俊夫の作品に見る現代の芸術としてのオペラの可能性」と題して拙いお話をさせていただきます。主にドイツと広島で細川俊夫さんのオペラ作品の上演に接してきた経験を振り返りることで、《海、静かな海》の細川さんのオペラ作品における位置を測り、その初演を振り返ることによって、大震災と原発事故後の現代に向き合うこの新たなオペラの特徴を掘り下げ、さらに細川さんの作品から見て取られる、現代の芸術としてのオペラの可能性の一端に迫ることができれば、と考えております。

ご参加の方々を交えた議論をつうじて、《海、静かな海》の初演の意義をさらに掘り下げ、現代の芸術としてのオペラの可能性を検討できれば、実りあるシンポジウムになることでしょう。現代の音楽に関わっておられる方々、オペラや演劇など、舞台芸術に関わっておられる方々、これらの芸術に関心をお持ちの方々などが、数多く議論に加わってくださることを願っております。入場無料で、事前の申し込みも不要とのことです。お問い合わせ先は、中央大学人文科学研究所(Tel.: 042-674-3270)です。共催に加わってくださった東京ドイツ文化センターのウェブサイト日本独文学会のウェブサイトにも、情報が掲載されております。どうぞ奮ってご参加ください。みなさまのお越しを心よりお待ち申し上げております。

日本からの現代オペラの可能性を探るシンポジウムのお知らせ

近所の空き地に咲く梅の花

近所の空き地に咲く梅の花

三月半ばを過ぎて急に暖かくなってきました。春の花が咲き、土筆が芽吹く風景に春の訪れを感じさせる日が続いていますが、みなさまいかがお過ごしですか。気がつけばもう三月も下旬。さまざまな仕事に追われるなか、そろそろ新たな年度の始まりを意識せざるをえなくなる時期まで来てしまいました。

さて、ここではみなさまに、日本から現代オペラを創る可能性を探るシンポジウムをご紹介したいと思います。来たる3月29日(日)の14時から、中央大学の駿河台記念館にて、「《リアの物語》から考える──日本での現代オペラ上演の現状と課題」をテーマとするシンポジウムが開催されます(リンク先に詳細な案内があります)。中央大学の人文科学研究所の公開研究会として行なわれるこのシンポジウムは、以前にもご紹介した細川俊夫さんのオペラ《リアの物語》の広島初演の成果と課題を踏まえながら、日本で、さらには日本から現代のオペラを創造するための課題を明らかにしようとするものです。《リアの物語》の16年ぶりの日本での上演を一過性のものとして終わらせないためにも、こうした試みは大変貴重なものと思われます。

『オペラから世界を見る』(中央大学出版部、2013年)などのご著書がお有りで、現代のオペラの可能性を世界的な動向を視野に追求し続けておられる森岡実穂さんがコーディネイトしてくださった今回のシンポジウムでは、日本におけるオペラの上演史やそれをめぐる現在の状況に精通されていて、オペラそのものについての該博な知識を背景に、日本におけるオペラの可能性を追求されている、昭和音楽大学の石田麻子さんにご講演いただくことになっています。また、《リアの物語》の作曲家で、ベルリン国立歌劇場やブリュッセルのモネ劇場など、世界各地の劇場でのご自身の作品の上演を経験されている細川俊夫さんにも、特別ゲストとしてディスカッションに加わっていただける予定です。日本の状況と世界的な文脈の双方を踏まえながら、現代のオペラの可能性を議論できる貴重な機会になるのではないでしょうか。

私も、広島で《リアの物語》の公演をお手伝いさせていただいた立場から、この公演の成果と課題を報告し、広島でのオペラ創造の課題を、一定の普遍性を有するものとしてご参加のみなさまと共有することを目指す講演を、拙いながらご用意しております。《リアの物語》の広島初演の能舞台を用いた舞台の特色やプロダクションの特徴などを確認したうえで、それを主催したひろしまオペラ音楽推進委員会の継続的な事業の一端を紹介するとともに、《リアの物語》広島初演の成果と課題を踏まえ、広島における、ないしは広島からの現代のオペラの創造へ向けた課題を提示する内容を予定しております。

今、オペラとは何か、オペラとはどのような舞台芸術でありうるのか、という問いにあらためて向き合いながら、現代世界に生きることを照らし出す新たなオペラを日本から、あるいは日本の各地域から創造する可能性を、ご参加のみなさまとともに考え、問題意識を共有できればと考えております。オペラをはじめ現代の舞台芸術に関心を寄せられている方々が、数多く議論に加わっていただけることを願っております。参加費は無料です。ご参加ご希望のみなさまは、中央大学の森岡さん(morioka[アットマーク]tamacc.chuo-u.ac.jp)にご一報いただければ幸いです。みなさまのお越しをお待ち申し上げております。